「ある人、弓射ることを習ふに」の用言はどこ?
兼好法師『徒然草』の「ある人、弓射ることを習ふに」の用言がどこか分からない。
ここではそんな人の悩みを解決します!
「ある人、弓射ることを習ふに」の用言はここ!
「ある人、弓射ることを習ふに」の用言は、以下の赤字部分です。
用言とは、動詞(例:歩く・走る)、形容詞(例:美しい・かわいい)、形容動詞(例:きれいだ・静かだ)の3つです。
【原文】「ある人、弓射ることを習ふに」
ある人、弓射る1ことを習ふ2に、諸矢をたばさみ3て的に向かふ4。師のいはく、「初心の人、二つの矢を持つ5ことなかれ6。後の矢を頼み7て、初めの矢になほざり8の心あり9。毎度ただ得失なく10、この一矢に定む11べしと思へ12。」と言ふ13。わづかに14二つの矢、師の前にて一つをおろかに15/せ16むと思は17むや。懈怠の心、自ら知ら18ずといへ19ども、師これを知る20。この戒め、万事にわたる21べし。道を学する22人、夕には朝あら23むことを思ひ24、朝には夕あら25むことを思ひ26て、重ねてねんごろに27/修せ28むことを期す29。いはむや、一刹那のうちにおいて、懈怠の心ある30ことを知ら31むや。なんぞ、ただ今の一念において、ただちにする32ことのはなはだ難き33。
これらの用言の活用形は、以下の表にまとめています。
用言 | 活用形 |
1.射る | ヤ行上一段活用動詞・「射る」連体形 |
2.習ふ | ハ行四段活用動詞・「習ふ」連体形 |
3.たばさみ | マ行四段活用動詞・「たばさむ」連用形 |
4.向かふ | ハ行四段活用動詞・「向かふ」終止形 |
5.持つ | タ行四段活用動詞・「持つ」連体形 |
6.なかれ | 形容詞ク活用・「なし」命令形 |
7.頼み | マ行四段活用動詞・「頼む」連用形 |
8.なほざり | 形容動詞ナリ活用・「なほざりなり」の語幹・連用形 |
9.あり | ラ行変格活用動詞・「あり」終止形 |
10.なく | 形容詞ク活用・「なし」連用形 |
11.定む | マ行下二段活用動詞・「定む」終止形 |
12.思へ | ハ行四段活用動詞・「思ふ」命令形 |
13.言ふ | ハ行四段活用動詞・「言ふ」終止形 |
14.わづかに | 形容動詞ナリ活用・「わづかなり」連用形 |
15.おろかに | 形容動詞ナリ活用・「おろそかなり」連用形 |
16.せ | サ行変格活用動詞・「す」未然形 |
17.思は | ハ行四段活用・「思ふ」未然形 |
18.知ら | ラ行四段活用・「知る」未然形 |
19.いへ | ハ行四段活用・「いふ」已然形 |
20.知る | ラ行四段活用動詞・「知る」終止形 |
21.わたる | ラ行四段活用・「わたる」終止形 |
22.学する | サ行変格活用動詞・「学す」連体形 |
23.あら | ラ行変格活用・「あり」未然形 |
24.思ひ | ハ行四段活用・「思ふ」連用形 |
25.あら | ラ行変格活用・「あり」未然形 |
26.思ひ | ハ行四段活用・「思ふ」連用形 |
27.ねんごろに | 形容動詞ナリ活用・「ねんごろなり」連用形 |
28.修せ | サ行変格活用・「修す」未然形 |
29.期す | サ行変格活用動詞・「期す」終止形 |
30.ある | ラ行変格活用動詞・「あり」連体形 |
31.知ら | ラ行四段活用動詞・「知る」未然形 |
32.する | サ行変格活用動詞・「す」連体形 |
33.難き | 形容詞ク活用・「難し」連体形 |
「ある人、弓射ることを習ふに」の現代語訳!
ある人が、弓を射ることを習うのに、二本の矢を手にはさんで持ち、的に向かいます。
(ある人、弓射ることを習ふに、諸矢をたばさみて的に向かふ。)
師匠が言うことには、
(師のいはく、)
「初心者は、二本の矢を持ってはいけない。
(「初心の人、二つの矢を持つことなかれ。)
あとの矢(二本目の矢)を頼りにして、初めに射る矢をおろそかにする気持ちになるからだ。
(後の矢を頼みて、初めの矢になほざりの心あり。)
毎回、ただ当たる、当たらないと考えるのではなく、この一本の矢で決めるのだと思え。」
(毎度ただ得失なく、この一矢に定むべしと思へ。」)
と言います。
(と言ふ。)
たった二本の矢、師匠の前でその一本をおろそかにしようと思うでしょうか、いや思わないでしょう。
(わづかに二つの矢、師の前にて一つをおろかにせむと思はむや。)
〈しかし〉怠ってしまう心は、自分では分からずとも、師匠はこれを分かっています。
(懈怠の心、自ら知らずといへども、師これを知る。)
この戒めは、全てに通じることでしょう。
(この戒め、万事にわたるべし。)
(学問や仏道など専門の)道を修行する人は、夜には明日の朝があるだろうと思い、朝には夜があるだろうと思って、もう一度入念に修行しようとあとのあてにします。
(道を学する人、夕には朝あらむことを思ひ、朝には夕あらむことを思ひて、重ねてねんごろに修せむことを期す。)
(朝夕という長い時間でさえも怠ってしまう心に気づかないのに)ましてや、一瞬のうちであれば、怠る心がひそむこと知るでしょうか。いや、しないでしょう。
(いはむや、一刹那のうちにおいて、懈怠の心あることを知らむや。)
どうして、今の一瞬の間で、すぐ行動するということがこんなにも難しいのでしょうか。
(なんぞ、ただ今の一念において、ただちにすることのはなはだ難き。)
以上、兼好法師『徒然草』「ある人、弓射ることを習ふに」の現代語訳&用言まとめでした!