『枕草子』「宮に初めて参りたるころ」(第二部)の用言と助動詞の品詞と活用形!
「宮に初めて参りたるころ」の用言と助動詞は、以下の赤字部分です。
【本文】
第二部
暁には、とく1/下り2/な3/む4といそが5/るる6。「葛城の神もしばし。」など仰せ7/らるる8を、いかでかは筋かひ9/御覧ぜ10/られ11/む12とて、なほ臥し13/たれ14ば、御格子も参ら15/ず16。女官ども参り17て、「これ、放た18/せ19/給へ20。」など言ふ21を聞き22て、女房の放つ23を、「まな。」と仰せ24/らるれ25ば、笑ひ26て帰り27/ぬ28。ものなど問は29/せ30/給ひ31、のたまはする32に、久しう33/なり34/ぬれ35ば、「下り36/まほしう37/なり38/に39/たら40/む41。さらば、はや。夜さりは、とく。」と仰せ42/らる43。ゐざり44/帰る45にや遅きと、上げちらし46/たる47に、雪降り48/に49/けり50。登華殿の御前は、立蔀近く51てせばし52。雪いとをかし53。
以下の表に、用言と助動詞の品詞と活用形をまとめています。
用言と助動詞 | 品詞と活用形 |
1.とく | ク活用・形容詞「とし」連用形 |
2.下り | ラ行上二段活用・動詞「おる」連用形 |
3.な | 強意・助動詞「ぬ」未然形 |
4.む | 意志・助動詞「む」終止形 |
5.いそが | ガ行四段活用・動詞「いそぐ」未然形 |
6.るる | 自発・助動詞「る」連体形 |
7.仰せ | サ行下二段活用・動詞「おほす」未然形「言ふ」の尊敬語 |
8.らるる | 尊敬・助動詞「らる」連体形 「仰せらるる」は二重敬語 |
9.筋かひ | ハ行四段活用・動詞「すぢかふ」連用形 |
10.御覧ぜ | サ行変格活用・動詞「ごらんず」未然形 |
11.られ | 受身・助動詞「らる」未然形 |
12.む | 意志・助動詞「む」連体形 |
13.臥し | サ行四段活用・動詞「ふす」連用形 |
14.たれ | 存続・助動詞「たり」已然形 |
15.参ら | ラ行四段活用・動詞「まゐる」未然形 |
16.ず | 打消・助動詞「ず」終止形 |
17.参り | ラ行四段活用・動詞「まゐる」連用形 |
18.放た | タ行四段活用・動詞「はなつ」未然形 |
19.せ | 尊敬・助動詞「す」連用形 |
20.給へ | ハ行四段活用・動詞「たまふ」命令形 |
21.言ふ | ハ行四段活用・動詞「いふ」連体形 |
22.聞き | カ行四段活用・動詞「きく」連用形 |
23.放つ | タ行四段活用・動詞「はなつ」連体形 |
24.仰せ | サ行下二段活用・動詞「おほす」未然形「言ふ」の尊敬語 |
25.らるれ | 尊敬・助動詞「らる」已然形 「仰せらるれ」は二重敬語 |
26.笑ひ | ハ行四段活用・動詞「わらふ」連用形 |
27.帰り | ラ行四段活用・動詞「かへる」連用形 |
28.ぬ | 完了・助動詞「ぬ」終止形 |
29.問は | ハ行四段活用・動詞「とふ」未然形 |
30.せ | 尊敬・助動詞「す」連用形 |
31.給ひ | ハ行四段活用・動詞「たまふ」連用形 |
32.のたまはする | サ行下二段活用・動詞「のたまはす」連体形 |
33.久しう | シク活用・形容詞「ひさし」連用形「ひさしく」のウ音便 |
34.なり | ラ行四段活用・動詞「なる」連用形 |
35.ぬれ | 完了・助動詞「ぬ」已然形 |
36.下り | ラ行上二段活用・動詞「おる」未然形 |
37.まほしう | 願望・助動詞「まほし」連用形「まほしく」のウ音便 |
38.なり | ラ行四段活用・動詞「なる」連用形 |
39.に | 完了・助動詞「ぬ」連用形 |
40.たら | 存続・助動詞「たり」未然形 |
41.む | 推量・助動詞「む」終止形 |
42.仰せ | サ行下二段活用・動詞「おほす」未然形「言ふ」の尊敬語 |
43.らる | 尊敬・助動詞「らる」終止形「仰せらる」は二重敬語 |
44.ゐざり | ラ行四段活用・動詞「ゐざる」連用形 |
45.帰る | ラ行下二段活用・動詞「かへる」連体形 |
46.上げちらし | サ行四段活用・動詞「あげちらす」連用形 |
47.たる | 完了・助動詞「たり」連体形 |
48.降り | ラ行四段活用・動詞「ふる」連用形 |
49.に | 完了・助動詞「ぬ」連用形 |
50.けり | 過去または詠嘆・助動詞「けり」終止形 |
51.近く | ク活用・形容詞「ちかし」連用形 |
52.せばし | ク活用・形容詞「せばし」終止形 |
53.をかし | シク活用・形容詞「をかし」終止形 |
二重敬語とは?
「仰せ(「言ふ」の敬語)+らるる(「らる」の尊敬)」の様に、尊敬語+尊敬語のことを「二重敬語」や「最高敬語」と言う。
多くの場合、天皇や中宮に使われる。高い敬意を表す言葉である。
『枕草子』「宮に初めて参りたるころ」(第二部)の現代語訳!
夜明け前には、早く出ようと気がせかれます。
(暁には、とく下りなむといそがるる。)
「葛城の神(=自分の醜さを恥じらう例え)も、もうしばらく(いなさい)。」と中宮様がおっしゃるのですが、
(「葛城の神もしばし。」など仰せらるるを、)
どうして斜めに向かい合うのでも姿をご覧に入れることができるだろうと思って、やはり臥す姿勢でいるので、御格子もお上げしないでいます。
(いかでかは筋かひ御覧ぜられむとて、なほ臥したれば、御格子も参らず。)
女官たちが参上してきて、「これを、お開けください。」などと言うのを聞いて、
(女官ども参りて、「これ、放たせ給へ。」など言ふを聞きて、)
(他の)女房が(格子を)上げるのを(中宮様は)「だめ。」とおっしゃるので、(女房たちも)笑って帰っていった。
(女房の放つを、「まな。」と仰せらるれば、笑ひて帰りぬ。)
(中宮様が私に)あれこれお尋ねになり、お話されるうちに、だいぶ時間がたったので、
(ものなど問はせ給ひ、のたまはするに、久しうなりぬれば、)
「(初めての宮仕えで)退出したくなったのでしょう。では、早く(退出しなさい)。今夜は、すぐに(いらっしゃい)。」と(中宮様が)おっしゃいます。
(「下りまほしうなりにたらむ。さらば、はや。夜さりは、とく。」と仰せらる。)
膝をついた状態で移動して退出するやいなや、(格子を)ささっと上げたところ、(外には)雪が降っていたのでした。
(ゐざり帰るにや遅きと、上げちらしたるに、雪降りにけり。)
登華殿の御前は、立蔀が近くにあって狭い。雪はとても風情がある。
(登華殿の御前は、立蔀近くてせばし。雪いとをかし。)
次のページに第三部「昼つかた〜」の用言と助動詞の品詞・活用形&現代語訳をまとめています。