『伊勢物語』「女はらから」の品詞分解と口語訳は何?
ここではそんな人の悩みを解決します!
『伊勢物語』の「女はらから」は、書籍によっては「武蔵野の心」「むさしのの心」と題させているものもあります。
「女はらから」の用言の品詞分解まとめ!
「女はらから」の用言は、以下の赤字部分です。
むかし、女はらから二人あり1/けり2。一人はいやしき3男の貧しき4、一人はあてなる5男もたり6/けり7。いやしき8男持たる9、十二月のつごもりに、上の衣を洗ひ10て、手づから張り11/けり12。
心ざしはいたし13/けれ14ど、さる15/いやしき16わざもならは17/ざり18/けれ19ば、上の衣の肩を張り20破りて21/けり22。せむかたもなく23て、ただ泣き24に泣き25/けり26。
これをかのあてなる27男聞き28て、いと心苦しかり29/けれ30ば、いと清らなる31緑衫の上の衣を見いで32てやる33とて、紫の色こき34時はめもはるに野なる35草木ぞわか36/れ37/ざり38ける
武蔵野の心なる39/べし40。
これらの用言の活用形は、以下の表にまとめています。
用言 | 品詞分解 |
1.あり | ラ行変格活用動詞「あり」連用形 |
2.けり | 過去・助動詞「けり」終止形 |
3.いやしき | シク活用・形容詞「いやし」連体形 |
4.貧しき | シク活用・形容詞「まどし」連体形 |
5.あてなる | ナリ活用・形容動詞「あてなり」連体形 |
6.もたり | ラ行変格活用・動詞「もたり」連用形 |
7.けり | 過去・助動詞「けり」終止形 |
8.いやしき | シク活用・形容詞「いやし」連体形 |
9.洗ひ | ハ行四段活用「あらふ」連用形 |
10.張り | ラ行四段活用・動詞「張る」連用形 |
11.けり | 過去・助動詞「けり」終止形 |
13.いたし | サ行四段活用・動詞「いやし」連用形 |
14.けれ | 過去・助動詞「けり」已然形 |
15.さる | ラ行変格活用・動詞「さり」連体形 |
16.いやしき | シク活用・形容詞「いやし」連体形 |
17.ならは | ハ行四段活用・動詞「ならふ」未然形 |
18.ざり | 打消・助動詞「ず」連用形 |
19.けれ | 過去・助動詞「けり」已然形 |
20.張り | ラ行四段活用動詞「はる」連用形 |
21.て | 完了・助動詞「つ」連用形 |
22.けり | 過去・助動詞「けり」終止形 |
23.なく | ク活用・形容詞「なし」連用形 |
24.泣き | カ行四段活用・動詞「なく」連用形 |
25.泣き | カ行四段活用・動詞「なく」連用形 |
26.けり | 過去・助動詞「けり」終止形 |
27.あてなる | ナリ活用・形容動詞「あてなり」連体形 |
28.聞き | カ行四段活用・動詞「きく」連用形 |
29.心苦しかり | シク活用・形容詞「こころぐるし」連用形 |
30.けれ | 過去・助動詞「けり」已然形 |
31.清らなる | ナリ活用・形容動詞「きよらなり」連体形 |
32.見いで | ダ行下二段活用・動詞「みいづ」連用形 |
33.やる | ラ行四段活用・動詞「やる」連体形 |
34.こき | ク活用・形容詞「こし」連体形 |
35.なる | 断定・助動詞「なり」連体形 |
36.わか | カ行四段活用・動詞「わく」未然形 |
37.れ | 可能・助動詞「る」未然形 |
38.ざり | 打消・助動詞「ず」連用形 |
39.なる | 断定・助動詞「なり」連体形 |
40.べし | 推量・助動詞「べし」終止形 |
「女はらから」の口語訳!
昔、ふたりの姉妹がいた。
(むかし、女はらから二人ありけり。)
ひとりは身分が低く貧しい夫を、もう一人は身分が高い夫を持っていた。
(一人はいやしき男の貧しき、一人はあてなる男もちたりけり。)
身分の低い夫を持った方は、年の瀬に夫の上衣を洗って、自分で仕立てた。
(いやしき男もたる、師走のつごもりに上の衣を洗ひて、手づから張りけり。)
誠心誠意やったつもりだが、このような賎しい仕事に慣れていなかったので、上衣の肩を張る時に破ってしまった。
(志はいたしけれど、さる賎しき業も慣はざりければ、上の衣の肩を張り破りてけり。)
どうしようもなくて、ただ泣きに泣くばかりであった。
(せむ方もなくて、ただ泣きに泣きけり。)
これを、あの身分の高い男が聞いて、大変かわいそうに思ったので、とても気品のある緑色の上衣を見つけ出して女の夫へ贈る時に、
(これを、かのあてなる男聞きて、いと心苦しかりければ、いと清らかなる録衫の上の衣を見出でてやるとて、)
紫草の色濃い時は、目も遥かに、野にある草木の区別が出来ないものです
(紫の色濃き時はめもはるに野なる草木ぞわかれざりける)
「武蔵野の歌」と同じ心の歌だろう。
(武蔵野の心なるべし。)
以上が「女はらから」の口語訳です!
最後の二行は、そのまま読んでも理解しにくいところです。
まず、
- 紫の/色濃き時は/めもはるに/野なる草木ぞ/わかれざりける
は、「妻への愛情が深いときは、妻に関係する人には親切にしてあげたいと思うものだ」という意味になります。
そしてそれに続く「武蔵野の心なるべし」は、
- 紫の/ひともとゆゑに/武蔵野の/草はみながら/あはれとぞ見る
という「武蔵野の歌」と同じ心の歌であろうという意味になります。
この歌は、 「紫草の一本のために、武蔵野の草はすべて、愛しいものに見える」という内容です。
「女はらから」の「紫の/色濃き時は/めもはるに/野なる草木ぞ/わかれざりける」と同じ心境が語られていることが分かりますね。
以上『伊勢物語』「女はらから」の用言の品詞分解と口語訳でした!