【後半】『伊勢物語』「狩りの使ひ」の用言と助動詞の品詞と活用形!
「狩りの使ひ」後半の用言と助動詞は、以下の赤字部分です。
【本文】
第二部
つとめて、いぶかしけれ1ど、わが人をやる2/べき3/に4/し/あら5/ね6ば、いと心もとなく7て待ちをれ8ば、明け離れ9てしばしある10に、女のもとより、詞はなく11て、「君や来12/し13我や行き14/けむ15/思ほえ16/ず17夢かうつつか寝18てか覚め19てか」男、いといたう20/泣き21て詠め22/る23、「かきくらす24心の闇に惑ひ25/に26/き27夢うつつとは今宵定めよ28」と詠み29てやり30て、狩りに出で31/ぬ32。野にありけ33ど、心はそらに34て、今宵だに人静め35て、いと疾く逢は36/む37と思ふ38に、国守、斎宮頭かけ39/たる40、狩りの使ひあり41と聞き42て、夜ひと夜酒飲みし43/けれ44ば、もはら逢ひごともえせ45で、明け46ば尾張の国へ立ち47/な48/む49とすれ50ば、男も人知れ51/ず52血の涙を流せ53ど、え逢は54/ず55。夜やうやう明け56/な57/む58とする59ほどに、女方より出だす60杯の皿に、歌を書き61て出だし62/たり63。取り64て見れ65ば、「かち人の渡れ66ど濡れ67/ぬ68えにしあれ69ば」と書き70て、末はなし71。その杯の皿に、続松の炭して、歌の末を書き継ぐ72。「また逢坂の関は越え73/な74/む75」とて、明くれ76ば尾張の国へ越え77/に78/けり79。斎宮は水尾の御時、文徳天皇の御娘、惟喬親王の妹。
以下の表に、用言と助動詞の品詞と活用形をまとめています。
用語 | 品詞と活用形 |
1.いぶかしけれ | シク活用・形容詞「いぶかし」已然形 |
2.やる | ラ行四段活用・動詞「やる」終止形 |
3.べき | 当然・助動詞「べし」連体形 |
4.に | 断定・助動詞「なり」連用形 |
5.あら | ラ行変格活用・動詞「あり」未然形 |
6.ね | 打消・助動詞「ず」已然形 |
7.心もとなく | ク活用・形容詞「心もとなし」連用形 |
8.待ちをれ | ラ行変格活用・動詞「待ちおり」已然形 |
9.明け離れ | ラ行下二段活用・動詞「明け離る」連用形 |
10.ある | ラ行変格活用・動詞「あり」連体形 |
11.なく | ク活用・形容詞「なし」連用形 |
12.来 | 過去・助動詞「来(く)」未然形 |
13.し | 過去の・助動詞「き」連体形 |
14.行き | カ行四段活用・動詞「行く」連用形 |
15.けむ | 過去推量・助動詞「けむ」連体形 |
16.おもほえ | ヤ行下二段活用・動詞「おもほゆ」未然形 |
17.ず | 打消・助動詞「ず」終止形 |
18.寝 | ナ行下二段活用・動詞「寝(ぬ)」連用形 |
19.覚め | マ行下二段活用・動詞「覚む」連用形 |
20.いたう | ク活用・形容詞「いたし」連用形 |
21.泣き | カ行四段活用・動詞「泣く」連用形 |
22.詠め | マ行四段活用・動詞「詠む」已然形 |
23.る | 完了・助動詞「り」連体形 |
24.かきくらす | サ行四段活用・動詞「かきくらす」連体形 |
25.惑ひ | マ行四段活用・動詞「まどふ」連用形 |
26.に | 完了・助動詞「ぬ」連用形 |
27.き | 過去・助動詞「き」終止形 |
28.定めよ | マ行下二段活用・動詞「さだむ」命令形 |
29.詠み | マ行四段活用・動詞「詠む」連用形 |
30.やり | ラ行四段活用・動詞「やる」連用形 |
31.出で | ダ行下二段活用・動詞「出づ」連用形 |
32.ぬ | 完了・助動詞「ぬ」終止形 |
33.ありけ | カ行四段活用・動詞「ありく」已然形 |
34.そらに | ナリ活用・形容動詞「そらなり」連用形 |
35.静め | マ行下二段活用・動詞「静む」連用形 |
36.逢は | ハ行四段活用・動詞「逢ふ」未然形 |
37.む | 意志・助動詞「む」終止形 |
38.思ふ | ハ行四段活用・動詞「思ふ」連体形 |
39.かけ | カ行下二段活用・動詞「かく」連用形 |
40.たる | 存続・助動詞「たり」連体形 |
41.あり | ラ行変格活用・動詞「あり」終止形 |
42.聞き | カ行四段活用・動詞「聞く」連用形 |
43.し | サ行変格活用・動詞「す」連用形 |
44.けれ | 過去・助動詞「けり」已然形 |
45.せ | サ行変格活用・動詞「す」未然形 |
46.明け | カ行下二段活用・動詞「明く(あく)」未然形 |
47.立ち | タ行四段活用・動詞「立つ」連用形 |
48..な | 強意・助動詞「ぬ」未然形 |
49.む | 意志・助動詞「む」終止形 |
50.すれ | サ行変格活用・動詞「す」已然形 |
51.知れ | ラ行下二段活用・動詞「知る」未然形 |
52.ず | 打消・助動詞「ず」連用形 |
53.流せ | サ行四段活用・動詞「流す」已然形 |
54.逢は | ハ行四段活用・動詞「逢ふ」の未然形 |
55.ず | 打消・助動詞「ず」終止形 |
56.明け | カ行下二段活用・動詞「明く(あく)」連用形 |
57.な | 強意・助動詞「ぬ」未然形 |
58.む | 意志・助動詞「む」終止形 |
59.する | サ行変格活用・動詞「す」連体形 |
60.出だす | サ行四段活用・動詞「出だす」連体形 |
61.書き | カ行四段活用・動詞「書く」連用形 |
62.出だし | サ行四段活用・動詞「出だす」連用形 |
63.たり | 完了・助動詞「たり」終止形 |
64.取り | ラ行四段活用・動詞「取る」連用形 |
65.見れ | マ行上一段活用・動詞「見る」已然形 |
66.渡れ | ラ行四段活用・動詞「渡る」已然形 |
67.濡れ | ラ行下二段活用・動詞「濡る」未然形 |
68.ぬ | 打消・助動詞「ず」連体形 |
69.あれ | ラ行変格活用・動詞「あり」已然形 |
70.書き | カ行四段活用・動詞「書く」連用形 |
71.なし | ク活用・形容詞「無し」終止形 |
72.書き継ぐ | ガ行四段活用・動詞「書き継ぐ」終止形 |
73.越え | ヤ行下二段活用・動詞「越ゆ」連用形 |
74.な | 強意・助動詞「ぬ」未然形 |
75.む | 意志・助動詞「む」終止形 |
76.明くれ | カ行下二段活用・動詞「明く(あく)」已然形 |
77.越え | ヤ行下二段活用・動詞「越ゆ」連用形 |
78.に | 完了・助動詞「ぬ」連用形 |
79.けり | 過去・助動詞「けり」終止形 |
『伊勢物語』「狩の使ひ」の現代語訳!
翌朝、(男は)気がかりであったが、自分の従者を行かせるわけにはいかないので、
(つとめて、いぶかしけれど、わが人をやるべきにしあらねば、)
とてもじれったく思って待っていると、夜が明けてしばらくした頃に、女のもとから、言葉はなくて(歌だけが書かれており)、
(いと心もとなくて待ちをれば、明け離れてしばしあるに、女のもとより、詞はなくて、)
「あなたがやって来たのか、私が行ったのか、はっきり覚えていません。夢だったのか現実だったのか、寝ている間のことだったのか、目覚めていた時のことなのか。」
(「君や来し我や行きけむ思ほえず 夢かうつつか寝てか覚めてか」)
男は、たいそうひどく泣いて詠んだものに、
(男、いといたう泣きて詠める、)
「理性も分別もつかなくなって思い悩んでしまいました。夢か現実どちらだったのかは、今夜はっきりさせてください。」
(「かきくらす心の闇に惑ひにき 夢うつつとは今宵定めよ」)
と詠んで贈って、狩りに出た。
(と詠みてやりて、狩りに出でぬ。)
野をいたが、心はうわの空で、せめて今夜だけでも人が寝静まるのを待って、すかざず逢おうと思っていると、
(野にありけど、心はそらにて、今宵だに人静めて、いと疾く逢はむと思ふに、)
伊勢の国守で、斎宮寮の長官を兼ねている人が、狩りの使いがいると聞いて、一晩中酒宴を催したので、
(国守、斎宮頭かけたる、狩りの使ひありと聞きて、夜ひと夜酒飲みしければ、)
(女とは)まったく逢うこともできず、夜が明けたら尾張の国へ出発する予定なので、男も人知れず血の涙を流したけれど、逢うことはできない。
(もはら逢ひごともえせで、明けば尾張の国へ立ちなむとすれば、男も人知れず血の涙を流せど、え逢はず。)
夜がしだいに明けようとする頃に、女の方から差し出す杯を載せる皿に、歌を書いて出した。
(夜やうやう明けなむとするほどに、女方より出だす杯の皿に、歌を書きて出だしたり。)
(男が)手に取ってみると、
(取りて見れば、)
「徒歩の人が渡っても裾が濡れないほどに浅い河なので、」
(「かち人の渡れど濡れぬえにしあれば」)
と書いて、下の句はない。(男は)その杯の皿に、松明の燃え残りの炭で、下の句を書き継ぐ。
(と書きて、末はなし。その杯の皿に、続松の炭して、歌の末を書き継ぐ。)
「また逢坂の関を越えよう。」
(「また逢坂の関は越えなむ」)
と書いて、夜が明けると尾張の国へ越えて行った。この斎宮は清和天皇の御時、文徳天皇の御娘、惟喬の親王の妹である。
(とて、明くれば尾張の国へ越えにけり。斎宮は水尾の御時、文徳天皇の御娘、惟喬親王の妹。)
以上、『伊勢物語』「狩の使ひ」の用言と助動詞の品詞・活用形&現代語訳まとめでした!